05-02 略奪者

事態は、ほぼ最悪であった。
3人の略奪者が、ペロを拠点へとは逆の方向に連れ去ろうとしていた。
遠目からそれを確認したレムルスは、風のように、だが音も立てず近づいていった。
ペロまであと数歩の所まで辿りつく。
岩陰に隠れながら状況を確認する。
略奪者らは、ペロをまるで家畜のように、首と手を縄で縛り、力任せに引きずっていた。
ペロの頬には、殴られた大きなあざがあり、片耳からは血が流れていた。

「…………ゥ」
ペロを引きずるための縄を握っていた略奪者が、腹に受けたレムルスの一撃で、音も無く地面に倒れこんだ。
唖然とする残り2人の略奪者らは、武器を構えるための十分な時間をレムルスに与えられた。
「レムルス!!」
ペロが自分をかばうように前へ立つレムルスの背に叫んだ。
レムルスは、ペロの口元に血がこびりついていることを確認していた。
「……剛のレムルス!?」
略奪者の一人が呻くように叫んだ。
「なぜ、お前がここにいる! 薄汚い奴隷剣士め! 我々の禄を食んだ恩を忘れたか!」
ペロは混乱した。
略奪者たちはレムルスを知っている。
言葉のほとんどは理解できないが、口々にレムルスを罵っているようだった。
「この女は俺の獲物だ。じきに日が暮れる。この男を連れて去れ」
ペロは、レムルスが発した言葉も、理解できなかった。
なぜレムルスは略奪者の言葉を知っているのか、疑問に思った。
だがそれよりも、聞いた事も無いような、レムルスの怖い声に身がすくんだ。
「きゃッ」
レムルスが足元で気絶している男の顔を踏みつけた。
その野蛮な行為に、ペロはひどく驚いた。
「ぐぅ……」
「むぅ……」
仲間を足蹴にされてなお、2人はレムルスに、構えた武器を使おうとすらしなかった。
やがて、2人は気絶した仲間をそれぞれの肩で支え、去っていった。

3人の略奪者が消え去るまで、レムルスは周囲と3人への警戒を怠らなかった。
「…………レムルス。ごめんね」
「いや、こちらこそ、すまない」
「え?」
レムルスが、自らの片足を胸の辺りまで上げた。
その足の親指と中指には、ペロの耳飾りが挟まれていた。
レムルスに顔を踏まれた男が、ペロから奪いとっていたものであった。
「ペロの大事なもの。足で、すまない」
いつもの優しい、レムルスの声であった。
「…………レムルス、レムルスぅ…………」
ペロは、レムルスから耳飾りを受け取り、それを胸の前で握りしめ、その場にうずくまり、大粒の涙をこぼし始めた。

「…………」
その一連の出来事を、やや離れた岩山高くから、ウズマキは目撃していた。
ウズマキは、瞳を激しく燃やし、去っていく略奪者らの姿と方向を、睨みつけていた。