04-03 狩りの成果

拠点の入り口で、ペロが二人を出迎えた。
「わぁー。おっきぃねぇ。おいしそうだねぇ」
ことさら大げさに、ペロはウズマキの成果を喜んだ。
それでもウズマキは、悪い気がしなかった。
一緒に居るレムルスを見て、ペロは一言「ぷん」とだけ言い、顔を膨らませて、視線をそらした。
「マスター。何も言わず、5日間も姿を見せなかったのだ。ペロは怒っている」
夜を一つ越えることを、一日と呼ぶ。
ウズマキはレムルスから教えられていた。
「すまない」
本当にすまなそうに、レムルスは謝った。
「でも大丈夫だ。ペロの怒りは、すぐ収まる」
「……もう。そんなにペロは、簡単じゃないんだからねぇ。ウズマキ、疲れている所にごめんなさいだけど、火をつけてくれる?」
「お安い御用だ。それと、今日の夕食だが……」
「香草焼きにするねぇー」
「あぁ。昨日のそれを、マスターにも食べさせてやりたい」
「あーい。頑張って作るから、レムルスもたくさん食べてね!」

「さぁ、召し上がれぇ~」
ウズマキは、昨日とは肉の厚みが大きく違うことに気づいた。
まだペロは、レムルスに怒っているのだろうか。
「ペロ。悪い。マスターにはもう少し大きな肉を、切り分けてくれないか」
「ウズマキ、大丈夫だよ。味は昨日と同じか、それよりもおいしいから」
昨日よりもはるかに薄く切られた肉が、焼かれて並んでいる。
小さな石の器には、やや濁った液体が注がれていた。
「そのお汁に、お肉をちょんちょん、って付けて、食べてみてね」
「お汁にちょんちょん、か。分かった」
食欲をそそる、良い香りのする水であった。
迷いなく。ペロは薄い肉を手で掴み、液体につけ、口に放り込む。
「はぎゅ!!」
衝撃の味だった。
以前、ペロが出したような変な声も出てしまった。
肉自体も絶妙な火加減で焼けているが、この液体ががすごい、とウズマキは思った。
「は、ハーブを水に混ぜたのか? いや、この甘さは、それだけじゃない。りんごだ!」
「薄く切った方が、たくさんお汁を絡められるでしょ?」
「あぁ……んぐんぐ、そうだな、んぐんぐ……」
夢中でウズマキは肉を汁につけ、口に運ぶ動作を繰り返した。
「はい。レムルスも食べてみて」
レムルスは、頷き、肉を食べた。
その肉は、ウズマキが一人の力で採り、ウズマキが起こした火で、ペロが工夫をし、焼かれた肉だった。
一口、口へと運ぶ。
ふと、レムルスの頬が緩んだ。
「あ~。やったぁ。レムルスが笑ったぁ!」
「あぁ、うん。んぐんぐ、それほどに、この肉はうまいのだ……ペロ、おかわり」

火は不思議だ。
触れると熱い。痛みの塊りだ。
しかし、ゆらゆらと動いている赤い火花を眺めていると、心が安らぐ。
食事を終え、もはや慣れた手つきで薪をくべながら、ウズマキは対面の火花とレムルスを眺めて、ぼんやりとしていた。
「でも、ウズマキの言う通りだったね」
食事の片づけを終えたペロが、焚火の囲いに参加した。
「レムルスは、必ず帰ってくるって。どこにも行かないって」
「そうだ。マスターは、この5日間、私が山羊を探している間も、ずっと私を見ていたのだ」
レムルスは驚いた。
「気づいていたのか?」
レムルスは、最新の注意を払い、ウズマキに気づかれぬよう、潜んでいたつもりだった。
「ううん。全く気がづかなかった。でも、マスターが私から目を離すわけないと、思っていた」
そしてウズマキは、口を尖らせる。
「だから、この前みたいに私は勘違いをした。アレは全部マスターが悪い」
うぅむ、と、レムルスは唸った。
ペロは笑った。
「あの後、ウズマキがレムルスに戦いを教えて欲しいってお願いした時、やっぱり、って思ったよ」
「え、なんで?」
「えへへ……」
少し、ペロは悲しそうな顔をした。
ろくな返答をもらえなかったが、ウズマキはどうでも良かった。
今日はゆっくりと休みたかった。
「マスター。今日こそは、マスターも一緒に、拠点の奥で一緒に寝ないか?」
「あ、ペロもそれ、言おうと思ってた」
しかし、レムルスはゆっくりと首を振った。
どれだけ夜を重ねても、レムルスは決して拠点の奥へ入ろうとはしなかった。
「……分かった。おやすみ、マスター」
「ふぁぁ。おやすみ。レムルス」
片手を少し上げ、手のひらを見せ、レムルスは二人の気づかいに応えた。
既に日は暮れていたが、死者の気配は周囲に無かった。
火は不思議だ。死者をも遠ざける力があるようだ。
まるでレムルスのようだ、と、ウズマキは思った。