01-04 はしごとリンゴ

朝、ウズマキがしばらくぶりの深い眠りから覚めると、黒い仮面の男は既に起きていた。
少女が眠っている間に集めていたのであろう、いくつのも木の枝を使い、何かをこしらえている。
少女は少し男から離れた場所から、警戒を怠らないよう、男の手元を眺める。
長く太い棒と棒の間に、丈夫そうな木の枝を差し込み、引っ掛け、木のつるや草を使い補強をし、組み立てていく。
ムムほどとは思わないにしても、自分よりよほど器用だ。
自らの耳飾りに触れながら、少女は思った。
出来上がったその道具を、仮面の男は「ハシゴ」と呼んだ。
少女は最初、ハシゴを見て、扱いにくそうな武器だと思った。
しかし、男が木にハシゴを立てかけるのを見て、木を登るための道具だと理解した。
木の上には、少女が諦めていた赤く丸い果実が、たわわに実っている。
男からもらった果実よりも、さらに大きく、丸々と太っている赤い実。
たくさん採れるのであれば、食料調達の目的を達する十分な量になるはずだ。
少女はハシゴを使わせて欲しかった。
だが、引き換えに渡す事ができるストロベリーとは、つり合いが取れないと思い悩んだ。
「うぅん……むぅ………あッ」
少女が思いを言葉にできない間に、男はハシゴへと足をかけていた。
ミシリ、とハシゴが軋み、男は即座に足を離した。
男は少し考える様を見せた後、少女へ、身振り手振りを使って何かを伝えようとしてきた。
自分が登るとハシゴが重さで壊れるから、少女に登って欲しい。そう、少女は、男の意図を理解した。
「分かった。お前が作ったハシゴで、私が登り、果実を採る。お前が半分、私が半分、山分けだ。良いな?」
少女は、身振り手振りに言葉を交え、男に交渉をした。
男はゆっくりと頷いた。

少女は意気込んでハシゴに足をかけた。
ハシゴは軋むものの、男の体重を支えられないほど脆いとは、少女には思えなかった。
少女はするすると登り、ハシゴの一番上までたどり着く。
そこまで登れば、木の枝を伝って、果実まで手が届いた。
少女はその一つを採ろうする。
片手では力が足りず、両手を使ってようやくその一つをむしり取れた。
艶やかな赤く丸い果実。慎重に香りを確かめ、齧る。
食べられる。
甘い、うまい、歯ごたえもある。少し酸っぱいのがまた良い。
少女は木の上で、良い場所の枝に両足を絡めて陣取ると、無心で赤い果実を採集していく。
少女が一つ採っては、男に投げる。男が受け取る。男はその果実を「リンゴ」と呼んだ。
それを繰り返す内、木の上から採るものが無くなると、少女は下りて、別の木にハシゴをかけた。
採る、投げる、受け取る。男の傍らにリンゴが積まれていく。
男は、少女が落とすリンゴを、必ず落とさず、受け取っていた。
少女は少しムキになり、少し狙いを逸らしたり、強くリンゴを投げたりしてみる。
それでも男は、リンゴを地にこぼす事無く、受け止め続けた。
まるで少女が次どこに投げるか、分かっているかのようであった。

ハシゴとりんご-鋼鉄のレムルス

少女は意地になって、最後の一つを、全力で男へと投げつけた。
それも、男に受け取られてしまったのだが、少女は勢い余って、高い木から落ちてしまう。
「うわああああああ!? ………あんッ!」
地面に直撃する。少女が覚悟していた衝撃だが、一瞬優しく宙に浮いた感覚に変わった。
男は落ちた少女を、難なく受け止めていた。
結局、男は少女が落としたものを、受け損じる事は一度も無かった。